阿含経を旅して

阿含の教えに学ぶ

ブッダの成仏法と大脳

1983年、世界的に著名な科学ジャーナリスト、アーサーケストラーはこの本のなかで、『驚くばかりの人類の技術的偉業。そしてそれに劣らぬ社会運営の無能ぶり。この落差こそ、人類の病のいちじるしい特徴出ある。』とし、その原因を脳の構造上の欠陥を指摘します。脳の構造上の欠陥とはなにか? アーサーケストラーは言う。

「爬虫類型」の脳と「古代哺乳類型」の脳は、ともにいわゆる辺縁系を構成しているが、それは新皮質という人類特有の思考の帽子〉に対し、単純に〈古い脳〉とも表現できる。さて、人間の脳の中核にあって、本能、激情、生物的衝動をコントロールしているこの古い脳構造がほとんど進化の手の影響を受けていないのに対し、ヒト科の新皮質は、過去五〇万年に、進化史上例を見ない爆発的スピードで発達をとげた。実際、解剖学者のなかには、その急成長ぶりを腫瘍の成長にたとえるものさえいる。
洪積世後期におこったこの脳の爆発は、今日人口爆発や情報爆発などですっかり有名になった指数関数の曲線形態をたどったよ う だ (さまざまな分野、領域での歴史的加速現象がこうした曲線で表わされるのも、単なる表面的な類似ではないかもしれない)。しかし、爆発的成長から調和のとれた結果は生まれない。急速に発達していく思考の帽子は人間に論理的な力を与えはしたが、情緒専門の古い脳構造と適切に統合、調整されることなく、先例のないスピードで古い脳の上に覆いかぶさっていった。古い構造の中脳と新皮質をつなぐ神経径路は、どうみても不十分だ。かくして脳の爆発的成長は、古い脳と新しい脳、情緒と知性、信念と理性とが相剋する精神的にアンバランスな種を誕生させた。一方で青白き合理的、論理的思考がいまにも切れそうな細糸にぶらさがり、一方で感情に縛られた不合理な信念が、過去と今日の大虐殺の歴史のなかに狂気となってくっきりと姿を映している。

1971年、阿含宗開祖桐山靖雄師は、すでに『変身の原理』のなかで、アーサーケストラーとおなじ課題に向き合い、それを解決する方法を提案しています。

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師は、大脳新皮質の代表である、前頭連合野の働き、大脳辺縁系の代表である海場の働きを深く考察、検証しつつ、結論として次のように述べている。

深い層の奥にある旧皮質、古皮質にぞくする心を自由自在にコントロールして、理性知性とむすびつけることもすれば、きりはなすこともし、あるいはそれ自身単独で一つの方向に向けることもできる。そういう独自な方法を開発し完成していたのである。大随求法がそれである。わたしが、さきに、密教は、フロイト、パブロフをとうに越えていたといったのは、ここのことを言ったのである。結論を言おう。ホトケとはいったいなにか?p.323

ホトケとは、生理学的にいうならば、大脳辺縁系の深い層の心と、新皮質系の理性知性の心とを、自由自在に操作する技法を身につけたヒトである。それがホトケという存在であり、密教とはその技法をつたえるシステムなのであった。p.323

※『変身の原理』 この著書はほかにも、大脳生理学、深層心理学、古代の密教にかんして、さまざまな考察を重ね、詳しく論じているため、誤解を避けるためにもぜひ幾度も目を通していただきたい本です。

※前頭連合野 この脳領域は複雑な認知行動の計画、人格の発現、適切な社会的行動の調節に関わっているとされている。この脳領域の基本的な活動は、自身の内的ゴールに従って、考えや行動を編成することにあると考えられる。Wikipedia

※海馬(かいば、英: hippocampus)は、大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。 特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。 その他、虚血に対して非常に脆弱であることや、アルツハイマー病における最初の病変部位としても知られており、最も研究の進んだ脳部位である。Wikipedia

密教 密教は、最初、ひとつの手法であった。けっして、最初から、密教という一つの宗教があったわけではない。ゴータマ・ブッダがあらわれて、仏教というあたらしい教えを説きはじめるはるか以前、バラモンの時代から、インドには、人に超能力をあたえる一つの手法があった。そういう手法が完成されて、一部の人たちの間につたえられていた。それは、精神と肉体のきびしい練磨から得られる神秘的な力で、彼らは、それを、ひとつの技術にまでつくりあげていた。p.65『変身の原理』