阿含経を旅して

阿含の教えに学ぶ

ブッダが説いた祖霊を完全解脱に導く聖地

ヒンドゥー教の古い伝承によれば、ガンジスのほとり、ベナレスはそこで供養を受けた祖霊は必ず解脱するといわれる「三聖地」のひとつとされます。

そのような聖地が本当にあったら、ヒンドゥー教徒のみならず、全世界の仏教徒が参集することでしょう。

じつは、そのような聖地をゴータマ・ブッダアーガマによって説いていました。

「アーナンダよ。内外のヴァッジ人のヴァッジ霊域を敬い、尊び、崇め、支持し、そうして以前に与えられ、以前に為されたる、法に適ったかれらの供物を廃することがない間は、ヴァッジ人には繁栄が期待され、衰亡は無いであろう。

ブッダ最後の旅』中村元訳 p.14

霊域とは霊園のことでりあります。また法に適うための『法』とは成仏法にほかなりません。

しかしながら、この説示のみでは祖霊が解脱するとはどこにも説かれておりません。

祖霊を解脱成仏させ、また、その建立者をも完全成仏に導く聖地とはいかなるものなのでしょうか?

ブッダは説いています。

「アーナンダよ。どのような道理によって、修行完成者の教えを聞いて実行する人については、人々がかれのストゥーパをつくってこれを拝むべきであるのか? アーナンダよ。〈これは、かの修行完成者・真人・正しくさとりを開いた人の教えを聞いて実行した人のストゥーパである〉と思って、多くの人は心が浄まる。かれらはそこで心が浄まって、死後に身体が壊れてのちに、善いところ・天の世界に生まれる。アーナンダよ。この道理によって、修行完成者の教えを聞いて実行した人については、人々がかれのストゥーパをつくってこれを拝むべきである。」『ブッダ最後の旅』中村元訳 p.133

ここで、ブッダは大変なことを断言しています。

ブッダや聖者のお墓を祀り、供養することで、大きな功徳がいただけるのはわかりますが、ただ、ブッダの教えを聞いて実行した人にもストゥーパを建立して拝みなさい。そうすれば、心が浄まり、天の世界にうまれる。つまり解脱の徳がいただけると説いています。

ブッダの説く天の世界に生まれるとは、単なる昇天思想ではなく、人を完全解脱へと導く聖者の流れへと入ることに違いありません。

そのような解脱の徳が、ブッダの教えを聞いて実行した人のストゥーパ、つまり仏弟子のお墓を建立して供養することで得られると説いているのです。

なぜそのような功徳がいただけるのか?

そこで、気になるのは、供養の対象となるブッダの教えを聞いて実行した人とはどのような範疇に属するかという問題です。

じつは、ブッダの教えを聞いて実行した人とは、生きた人ばかりではありません。死者もふくまれるのです。当然、祖霊や、様々な霊的存在も含まれます。仏陀は誰に向かって説法したでしょうか。

六道世界の一切有情に対して説いているのです。つまり、祖霊や様々な霊的存在にも説法しています。そのような文証は阿含経、パーリ経典にいくらでも出てまいります。

その代表が雑阿含経に説く、亡くなったブッダの母、摩耶夫人をはじめ、かつて縁者だった多くの諸天に説法する経でしょう。彼らはブッダの教えに随喜し、歓喜してブッダに感謝をささげます。かれらもやはり、生きている人間同様に、ブッダから説法され、それを実行する人なのです。『国訳一切経 阿含部 二』p.430

さて仏滅後の仏弟子たちは、釈尊のこの教えを聞いて、どのようなことを実行したでしょうか。

まずは自分たちの霊域に、釈尊の仏塔を建立し、つぎに多くの聖者たちの仏塔、そしてその周囲には、自分自身の縁者である両親、祖霊のためにお墓を建立したことでしょう。そして、摩耶夫人になされたように、霊的な世界で法を説き続けるブッダのお姿を想像したことでしょう。

もとより、縁者の中にはかつて仏弟子でなかった者もいるでしょう。またさまざまな悪趣に落ちて苦しんでいる御霊もいることでしょう。彼らはここで供養され、やがて彼らの心も浄められ、成仏への道を歩み始めるのです。

また一方で、かつてブッダの教えに触れ、すでに仏弟子となった多くの祖霊もいるはずです。彼らを成仏法をもって供養することで、彼らの霊格があがり、変易生死のプロセスに入ります。

変易生死とは、デジタル大辞典によると「聖者が迷いの世界を離れて、輪廻りんねを超えた仏果に至るまでに受ける生」とあります。

聖者となった彼らは、神霊として子孫を守護するようになります。

「かれら神霊は供養されたならば、またかれを供養し、崇敬されたならば、またかれを崇敬する。かくて、かれを愛護すること、あたかも母が我が子を愛護するようなものである。神霊の冥々の加護を受けている人は、つねに幸運を見る。」

ブッダ最後の旅』中村元訳p.39

実際にかつて親族であった神霊が、バラモンの行者をブッダに導く話がスッタニパータにでてまいります。『ブッダのことば』p.106

 

これまでのブッダの説法を稚拙ながらまとめますと次のようになります。

①一族の霊域にて祖霊供養することで、一族の繁栄が期待される。

②亡くなった仏弟子のお墓を建立し、成仏法で供養することで、施主に解脱の徳が与えられる。

③神霊となった祖霊に供養することで、さまざまにご加護や、お導きをいただく。

 

もし、そのような聖地が現代にもあったら。

仏教徒であれば、誰しもがそう願うのではないでしょうか。

しかし、そのためには、ブッダの正法である成仏法を現代に蘇らせ、その成仏法を体得した阿闍梨とその弟子たちの集まりが必須になります。

そしてそような完全な聖地を実現させたのが、阿含宗開祖桐山靖雄大僧正猊下でした。

しかしながら、この聖地にはまだまだ深い意義がありそうです。つたない私見につき何卒ご容赦お願い申し上げます。

合掌